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そよ風で倒れる量子ビット

超伝導量子ビットはノイズに非常に敏感である。チップを形成する薄膜や界面における結晶構造の乱れ、電磁気的なノイズ、宇宙線の通過などによって簡単にビット状態が変わりエラーを発生させる。量子コンピューターを作ると言う観点からは何一つありがたくない性質だが、一方でこれは量子ビットが電磁場や粒子に対する高感度なセンサーとして使えることも意味する。我々はダークマターセンサーとしての超伝導量子ビットの応用の可能性を研究している。

WIMP (Weakly Interacting Massive Particle) と呼ばれる枠組みに入る重いダークマターが近年の直接探索実験によって強い制限がつけられる中、低質量のダークマターは未探索領域が比較的大きいため近年重要性が増している。弦理論的現象論において導出されるダークフォトンや、強いQCD問題解決の副産物として生成されるアクシオンなどが軽いダークマターの代表的な候補である。どちらも光子 (電磁波) への転換が可能であるが、巨大な電気双極子を持つ超伝導量子ビットはこの転換されて出てきた光子を検出する能力が非常に高い。また宇宙論的に最も好ましいO(µeV)からO(meV)の質量を持つダークマターから転換される光子の周波数は典型的にマイクロ波領域 (0.1-100GHz) である。これは現在量子コンピューターで使用される超伝導量子ビットの典型的な帯域であり、量子コンピューターがそのままこれらのダークマターの検出器として使えることが期待できる。

ダークマターから出た光を量子ビットで検出する

最も単純なターゲットとしてダークフォトン・ダークマターを考える。ダークフォトンは光と混合しているため、空間をこいつらが満たしている場合、その周波数に対応する微弱な電磁波が常に空間に漂うことになる。この光を高いQ値を持つ共振器に貯めこんで、アンテナで信号として読み出す「ハロスコープ」と呼ばれるタイプの実験が現在最も強い感度を達成しているが、対象とする信号があまりに弱いため (共振器内の平均光子数<<1) 測定反跳に関する不確定性原理に由来する標準量子限界 (Standard Quantum Limit; SQL) に感度が制限され始めている。量子ビットを使った光子検出は光子数空間への射影測定であるためSQLによる制限を受けないので、SQL以下の信号の読み出しへの応用が期待されている。既にシカゴ大学・フェルミ研究所が主導するグループから実証実験の成功が報告されており [1]、量子技術を活かした次世代ハロスコープ実験に向けた大きな展開が始まろうとしている。ICEPPではこの実証実験のセットアップから実際の物理測定に向けた拡張や、さらなる感度向上を目指した量子技術の応用の研究を現在行なっている。

また量子ビットの直接励起を用いる方法も現在検討されている [2]。注目すべきことにダークマターから滲み出ている電磁波はコヒーレントである。これはO(meV)以下の質量の軽いダークマターがマクロスコピックなドブロイ波長 (>O(m)) と高い数密度 (>O(109/cm3)) を持つため、ダークフォトン自体がコヒーレントな波であるためである。コヒーレント電場は量子ビットのドライブパルスと同じ性質を持つので、量子ビットの共鳴周波数に一致した質量を持つダークフォトン・ダークマターに晒された量子ビットは|0>状態から|1>状態にコヒーレントに励起される (Rabi振動)。|1>状態を|0>状態にするノイズ源は無数あるが、|0>状態を|1>状態に変えるノイズは非常に稀なので、ダークマター固有の信号として検出することができる。またSQUIDを使った周波数可変量子ビットを用いることで、狙うダークマター質量も1-2桁の範囲でスキャンすることができる。本当に実現可能なスキームだった場合、これは共振空洞を使った先行実験に比べて非常に大きなアドバンテージである。

実験準備状況

2022年より実験の準備が進んでいる。量子ビットの製作から希釈冷凍機と測定系の立ち上げ、量子ビットの性能評価まで一通り完了している。現在T1 は~10µs、T2は~3µsであるが、長足の進歩のさなかである。希釈冷凍機は東京大学低温科学研究センターにおける極低温量子プラットフォームの共同利用施設を使用している。

参考文献

  • Searching for Dark Matter with a Superconducting Qubit
    Akash V. Dixit et. al, Phys. Rev. Lett. 126, 141302 (2021)
  • Detection of hidden photon dark matter using the direct excitation of transmon qubits
    Shion Chen, Hajime Fukuda, Toshiaki Inada, Takeo Moroi, Tatsumi Nitta, Thanaporn Sichanugrist, arXiv: 2212.03884