概要
このプロジェクトが目指すのは、高エネルギー物理実験での荷電粒子のパターン認識への量子コンピュータ応用である。ハドロン加速器実験では、荷電粒子のパターン認識は一般的に最も挑戦的で、かつ計算資源に対する要求が高い技術の一つである。衝突頻度が現在より一桁高くなる高輝度HLC(HL-LHC)では、組み合わせの数が爆発的に増加するため、この状況はさらに悪化すると予想される。この研究では、我々は米国バークレー国立研究所のHEP.QPRプロジェクトと共同研究を進めている。
荷電粒子のパターン認識(トラッキング)は、検出器のデータから、高エネルギー衝突で生成した荷電粒子が作る一連のヒットを見つけ出す問題である。HEP.QPRでは、検出器データから連続する3層の検出器が作るヒット(トリプレットと呼ぶ)を構成し、トリプレットの組み合わせ問題としてトラッキングを行う。特に、各トリプレットを量子ビットに対応させ、荷電粒子の軌道に対するトリプレット対の空間分布から量子ビット間の相互作用を決めることで、2次制約無し2値最適化(QUBO)の手法でトラッキングの問題を解く。正しいトリプレットの組み合わせは、QUBOハミルトニアンを最小化することで選び出す。
研究
我々は、新しいアプローチとして、変分量子アルゴリズムを使ったハミルトニアンの最小化でトラッキングを行う手法にも取り組んでいる。量子・古典ハイブリッドの変分量子固有値ソルバー法(VQE)はその一例である。この手法を使うことで、ゲート式の量子コンピュータでもトラッキングを行うことが可能になるが、NISQマシンの量子ビット数には強い制約があるため、それを超えるためのアルゴリズム開発を進めている。